小児外科は生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)から学童期(中学生:16歳未満)までのお子さん方の外科治療なら国立岡山医療センター小児外科まで。

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鼠径ヘルニア


小児外科疾患の中で最も頻度の高い疾患です。足の付け根の部分をソケイ部(鼠径部)と呼びます。この部分には腹腔(お腹の中)と精巣を結ぶ“管”(ソケイ管)が存在します。ソケイ管は精巣のない女児にも存在します。

妊娠中に一時的に発生するソケイ管内への腹膜の突出(腹膜鞘状突起))の中へ腹腔内の臓器(小腸や大腸 女児では卵巣など)が脱出したものが小児のソケイヘルニアです(間接ソケイヘルニア 外ソケイヘルニアとも表現)。 一方、成人に多いタイプのソケイヘルニア(直接ソケイヘルニア 内ソケイヘルニアとも表現:小児での頻度は0.~0.3%前後と非常に稀)は発症の機構が異なり治療方法も異なります。

診療疾患画像
発症の仕組み
腹膜鞘状突起は胎生3ヶ月頃に腹膜の一部がソケイ管の中へ突出して発生します。通常は胎生7ヵ月で約60%が閉鎖し、出生までには約98%前後が自然に閉鎖します。
小児のソケイヘルニアは、
① 開存したままの腹膜鞘状突起部分に過剰な腹圧や腹水などが加わる
② 本来備わっているヘルニア防止機構の破綻
の2つの理由で開存していた腹膜鞘状突起内に腹腔内臓器が脱出することにより発症します。脱出臓器には腸管、卵巣(女児)、大網などがあります。
この腹膜鞘状突起は、出生後に自然閉鎖することはないので、一度発症したソケイヘルニアは自然に治癒することはありません。
*頻度
小児のの2~3%前後にみられます。男児に多く,右側に多いようです。両側性に発生するのは約10%です。
*症状
入浴や排便時、あるいは泣いた時などに足の付け根(鼠径部)が膨隆します。
他の疾患(例 陰嚢水瘤 や停留精巣など)あるいは、鼠径部の化膿性リンパ節炎でも同様の所見に見えることがあります。鼠径部が腫れても痛がってなければ、腫れている部位・痛み・硬さなどをよく観察をして下さい。強い痛みがあれば速やかに受診することをお勧めします。
鼠径部の膨隆が圧迫しても戻らない場合は脱出した腸管や卵巣に血流障害が生じる(嵌頓)場合があります。
鼠径部が突然に膨隆し、おしても戻らず、子供が不機嫌になっている場合は嵌頓の可能性があります。病院を受診してください。押しても戻らない場合緊急手術になることもあります。
治 療
下腹部の小さな切開で手術をします。手術で腹膜症状突起をできるだけ腹腔側の腹膜から出てすぐの部分で結紮切離します。新生児期・乳児期早期の鼠径ヘルニアの手術は決して簡単な手術ではありません。再発は極めてまれです。
当院での鼠径ヘルニア手術
2泊3日の入院です。前日に入院、手術をして翌日に退院です。手術は全身麻酔で行います。
さて、近年は腹腔鏡手術という方法が開発され、小児外科領域にも盛んに用いられてきています。当科でも、積極的に腹腔鏡手術は取り入れています。しかし、腹腔鏡での小児鼠径ヘルニア手術は施行しておりません。その理由の一点は、腹腔鏡によるヘルニア手術では、現在まで残念ながら従来法に比し再発率がやや高いとされているからです。
他の一点は、以下の理由からです。一般に片側のソケイヘルニアの際の対側発生率はおおよそ1割前後とされています。
この数字は数万人以上のデータに基づいたものです。しかし、腹腔鏡手術での反対側のヘルニアの有病率は約半数と非常に高率になっています。この差の理由はまだ完全には解明されていません。しかし、手術を行わなくても済んた子供達に手術という不利益を与える可能性がある、ということは事実です。腹腔鏡手術で反対側のヘルニアが見つかる子供達の割合よりも、手術をしなくて済む子供達の割合の方が高いので、当科では腹腔鏡手術はあえて行っていません。
鼠径ヘルニア手術実績
近年の当院での鼠径ヘルニア手術数です。
2005年度 219例
2006年度 273例
2007年度 221例

再発は713例中1例。再手術して治癒しています。
なお当院ではご家族が希望すれば鼠径ヘルニア手術の様子を別室のモニターでご覧いただけます。