小児外科は生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)から学童期(中学生:16歳未満)までのお子さん方の外科治療なら国立岡山医療センター小児外科まで。

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停留精巣


精巣は胎生期に腹腔内で形成され、さまざまなホルモンの作用により通常は1歳前までに陰嚢内に降りてきています。陰嚢内まで降りてきていないものが停留精巣です。陰嚢はしわが多く熱を放散し、陰嚢内の温度はは腹腔内よりも低く保たれています。精巣内の生殖細胞が精子まで成熟していくためには、腹腔内よりも温度が2度程度低い陰嚢内に存在する必要があります。

停留精巣は悪性腫瘍の発生の危険性が正常精巣の4倍といわれています。手術で精巣を陰嚢内に引き下ろすことでその危険性が低下するかどうかは今のところ分かっていません。ただ、陰嚢内に存在することで少なくとも腫瘍発生時には早期に発見される可能性が高くなります。

診療疾患画像
停留精巣の問題点
(1)停留精巣と妊孕能(子供を作る能力)
両側停留精巣ではおよそ半数が、片側でも20-30%で不妊を認めるという報告があります。しかし、最近では1歳~3歳代に手術をすれば、妊孕能はもっと改善されるのではないかとも言われています
(2)停留精巣と悪性腫瘍
停留精巣の精巣は正常の精巣に比べて精巣の癌になりやすいといわれています(正常の約4倍)。また、手術により精巣が陰嚢内に下降しても、癌化の頻度は変わらないともいわれています。そして、精巣の位置が頭側にあればある程癌化の率は高くなると云われています。
ただ、手術後には精巣は陰嚢内に降ろしているので自分で毎日触ってみることが可能になります。触ることで早期発見が可能になります。癌化すると数週間単位で大きさが著明に大きくなります。早期に発見されれば転移を未然に防ぐことが可能であり、癌が進行するような心配はいりません。(悪性化の時期は30―40歳代といわれています)。
(3)その他の問題点
精索軸捻転が起こりやすい。
外傷を受けやすい。
心理的問題を引き起こすことがある。
診 断
陰嚢内に精巣を触れない場合には専門家の診察が必要です。触診で陰嚢よりお腹側(頭側)に精巣を触知し、リラックスした状態で引っ張っても陰嚢底まで降りてこないものは停留精巣です。
移動性精巣という疾患名があります。これは、睡眠中など精巣挙筋(精巣を腹腔内に挙上させる筋肉)が緩んだ状態のときには陰嚢底まで降りるものをいいます。移動性精巣は基本的には手術は不要です。
陰嚢内にもそのお腹側にも触診上精巣を触知することができない場合を非触知精巣と言いますが、精巣が消失している場合と腹腔内に存在する場合があります。両側の非触知精巣の場合はホルモンの検査で精巣組織の存在を術前にチェックします。
治 療
治療法には、薬物療法と手術療法の2通りがあります。ごく一部に限り薬物療法が有効なことがありますが、手術療法が第一選択となることが殆どであり、薬物療法は考慮に入れる必要はありません。
手術内容
通常は下腹部と陰嚢の2か所の切開創から手術を行います。下腹部の切開創から精巣への血管(精巣血管)輸精管(精子を送る管)を伸ばすためにその周囲の組織を切離していきます。精巣が十分に陰嚢内に固定できるまで剥離を行ってから、陰嚢の切開を行います。陰嚢の切開部から陰嚢内に精巣を入れるポケットを作成し、精巣をその中に引き降ろしてきます。入院は2泊3日ですが、1週間は自宅での安静が必要です。精巣が陰嚢内に下降できるかどうかは自己の精巣血管の長さによります。
精巣血管が十分に長いと陰嚢内に固定が可能ですが、精巣血管が短く十分に陰嚢内に降ろすことができない場合には、手術を複数回に分けて行うことがあります。まず1度目の手術で精巣をできるだけ陰嚢側に降ろして固定を行い、精巣血管の長さが伸びてきた術後半年~1年後に再度前回と同様の手術を行います。そして、この手術を何度か繰返して最終的に精巣を陰嚢内に固定します。しかし、手術回数を重ねる度に精巣血管への障害のリスクは増え血管の伸展性も低下するので、2~3回以上は手術を行っても効果が殆どありません。
あるいは、腹腔鏡下に精巣血管を切断し、その後約半年後に精巣を陰嚢内に降ろす手術を行うこともあます。この方法では、精巣への血流は精巣血管以外から得られるので、精巣血管が短くても2度の手術のみで下降が可能になります。当科ではこの手術を10例ほど行っています。精巣の生着率は8~9割といわれていますが、当科では全例が生着しています。ただし、入院期間は1週間程と長くなります。
診療疾患画像

図1

診療疾患画像

図2

非触知精巣に対する治療
非触知精巣に対しては、腹腔鏡、超音波、MRI検査を用いたり、あるいは直接鼠径部からの手術を行ったりして診断や治療を行っています。どの様な方法で診断や治療を行っていくかは施設により異なります。手術の担当の先生にお尋ねください。当院では腹腔鏡を併用して、診断・治療を行っています。